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介護給付費債権

診療報酬債権に類似した債権として、介護保険法に基づく介護給付費債権があります。介護保険法は、介護給付費に関連して、介護給付費の債権者を被保険者(第41条第1項)、介護給付費は譲渡又は質入れができない(第25条)と規定する一方で、被保険者の利便性に資する目的で、介護事業者による代理受給(第41条第6項並びに第41条第7項)を規定します。



【図2】


従い、介護保険法の規定に基づけば、介護給付費の債権者は介護サービス利用者[1]で、債権譲渡は認められていない[2]ことより、介護事業者は、介護保険法に規定する代理受領権(代理権)に基づき、債権者(介護サービス利用者)の代理[3]として介護報酬を受領していると解されます。[4]


【図3】


当該法解釈を前提に、一般に行われている介護事業者を譲渡人とする債権譲渡取引("疑似債権譲渡取引")の取引実態は復代理権の付与で、介護給付費債権は移転しないと解されます。更に、疑似債権譲渡取引により取得した「介護事業者に対する債権」は、介護事業者を介在した不当利得返還債務を相殺する方法により、相殺可能になった時点(つまり、介護給付費の回収時点)で回収されると解されます。従い、相殺可能となる前(つまり、介護給付費の回収前)に介護事業者が破綻する場合、偏頗行為[5]と見做されて回収が否認される可能性があります。



【図4】


つまり、疑似債権譲渡取引では介護事業者の(x)破産手続開始の申立があった後又は(y)支払不能になった後に介護給付費を受領・相殺する場合、介護事業者の破産手続きにおいて破産管財人により、債権譲渡の否認、偏頗行為として、債権弁済の否認がされる可能性[6]があります。

更に、介護給付費債権が移転しない疑似債権譲渡取引は「貸金」と見做される可能性が想定され、その場合には、(x)貸金業法、(y)利息制限法、及び(z)出資の受入れ、預り金及び金利等の取締りに関する法律(所謂"出資法")の規制対象となります。従い、実務上は、貸金業登録業者が比較的クレジットが良好な介護事業者に限定して行っている模様です。

他方、介護事業者から債権譲渡通知が行われる場合に、国民健康保険団体連合会は譲受人に対して弁済を行っていること等から、介護保険法の規定に拘わらず、判例等[7]により、一定の範囲で債権と認められる可能性が想定され、その性格が必ずしも明らかではありません。[8][9]

なお、診療報酬債権同様に、介護給付費債権においても、(x)サービス提供済み債権(現在債権)、及び(y)サービス未提供債権(将来債権)の区別が存在します。各債権の区別には「債権の推移」をご参照ください。

【2017年7月13日加筆】
近年、「代理受領」を前提とした裁判例が散見されています。「介護給付費債権 | 介護給付費債権の性質 ― 介護給付費債権の債権者は誰か 介護給付費債権譲渡取引のリスク」をご参照ください。




[1] 「市町村は、…居宅要介護被保険者…が、…指定居宅サービス事業者…から…指定居宅サービス…を受けたときは、当該居宅要介護被保険者に対し、当該指定居宅サービスに要した費用…について、居宅介護サービス費を支給する。…」(介護保険法411項)

[2] 「保険給付を受ける権利は、譲り渡し、担保に供し、又は差し押さえることができない。」(介護保険法25条)

[3] 「居宅要介護被保険者が指定居宅サービス事業者から指定居宅サービスを受けたとき…は、市町村は、当該居宅要介護被保険者が当該指定居宅サービス事業者に支払うべき当該指定居宅サービスに要した費用について…当該居宅要介護被保険者に代わり、当該指定居宅サービス事業者に支払うことができる。」(介護保険法416項)、及び「前項の規定による支払があったときは、居宅要介護被保険者に対し居宅介護サービス費の支給があったものとみなす。」(介護保険法417項)

[4] 介護給付費債権流動化の課題」(JCR格付け20053月号)株式会社日本格付研究所

[5] 破産者が既存の特定の債権者に対し、担保を供与し、または、弁済等により債務を消滅させる行為。(x)破産者が支払不能になった後、又は(y)破産申立があった後の偏頗行為は、破産財団のために否認することができる。(破産法第162条第1項第1号)

[6] 破産管財人が選任されて破産手続きの中で否認を行う場合。法人の破産の場合、既済破産事件の内、破産手続きが終結した事件は、全体の29.87%2010年度、出所:司法統計年報)になります。

[7] 東京地判平成20年2月22日等、下級審ながら、介護事業者が介護給付費の一定の請求権(債権)を有することを前提とすると解される裁判例があります。

[8] 「介護サービス費に関しては、介護保険法上、保険者は介護サービス費として「介護被保険者に代わり」介護サービス事業者に「支払うことができる」旨、規定されているにとどまり、介護事業者は介護サービス費について支払請求権(債権)を有するのか、それとも、介護サービス費の支払請求権は被保険者だけに帰属し介護事業者は介護サービス費を被保険者の代理として受領できる権利を有するにすぎないのか、必ずしも明らかではない。」(「介護サービス費を裏づけとした事業者の資金調達手法のあり方」弁護士 細井 文明、「月刊シニアビジネスマーケット」(2011年10月号)綜合ユニコム株式会社)

[9] 「介護保険実務においては保険者から事業者への支払いを代理受領と称しているが、条文の文言、保険者と事業者との関係等に鑑みればこれを私法上も代理受領と捉えることは適切ではなく、むしろ保険者による債務引受と捉えるべきである。」(「介護保険報酬債権の担保化に関する一考察」四ッ谷 有喜、「法政理論第38巻第1号」(2005年))